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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)262号 判決

東京都杉並区高円寺南2丁目42番8号

原告(被参加人)

株式会社 今川

代表者代表取締役

今川秀雄

訴訟代理人弁理士

松浦恵治

アメリカ合衆国コネチカット州06490サウスポート市クリスタル ブランズ ロード

脱退被告(被参加人)

クリスタル ブランズ インコーポレーテッド

代表者

マイケル ビー マクリーン

アメリカ合衆国ニューヨーク州10104ニューヨーク市アヴェニュー オブ アメリカズ 1290

参加人

フィリップス ヴァン ヒューセン カンパニー

代表者

パメラ エヌ フートキン

訴訟代理人弁護士

松尾和子

飯田圭

訴訟代理人弁理士

加藤建二

大島厚

主文

原告(被参加人)の請求を棄却する。

訴訟費用は原告(被参加人)の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告(被参加人)

特許庁が、平成2年審判第3624号事件について、平成7年3月31日にした審決を取り消す。

訴訟費用は参加人の負担とする。

2  参加人

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告(被参加人、以下「原告」という。)は、別紙のとおり、「IZOD BY IMAGAWA」の欧文字を横書きしてなり、第21類「かばん、袋物、その他本類に属する商品」(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の区分による。)を指定商品とする登録第2204021号商標(昭和60年1月23日登録出願、平成元年8月17日登録査定、平成2年1月30日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。

脱退被告は、原告を被請求人として、本件商標につき登録無効の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成2年審判第3624号事件として審理したうえ、平成7年3月31日、登録第2204021号商標の登録を無効とする旨の審決をし、その謄本は、同年4月19日、原告に送達された。

2  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、アイゾッド社は、ゼネラル ミルズ社のファッション関係の事業部門として、フランスのラコステ社から、「LACOSTE」の商標に関する使用許諾を受け、米国において、ゴルフウェア、テニスウェア等のラコステ製品の製造、販売をしていたものであるが、その後、請求人(注、脱退被告)に、「IZOD」の商標とともに、その営業が譲渡され、請求人の傘下となったものであり、請求人は、「IZOD」の欧文字を単独で、又は、「LACOSTE」の欧文字もしくは「ワニ」の図形とともに、スポーツウェア等衣服を表示するものとして使用してきており、その結果、請求人の使用に係る商標中の「IZOD」の欧文字は、本件商標の商標登録出願日以前より日本国内において、需要者間に広く認識されていたものと認められるから、これと同一の綴文字を有してなる本件商標を、被請求人(注、原告)がその指定商品について使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、該商品がアイゾッド社の、もしくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあると認められ、本件商標は、商標法(平成3年法律第65号による改正前のもの、以下同じ。)4条1項15号の規定に違反して登録されたものであって、同法46条1項1号の規定により無効とすべきものであるとした。

3  権利の承継

参加人は、平成7年1月24日、脱退被告から「IZOD」に関する世界各国の登録商標を含む営業の全部の譲渡を受け、原告(被請求人)が脱退被告(請求人)を相手に提起していた上記審決に対する審決取消訴訟(当裁判所平成7年(行ケ)第131号審決取消請求事件)に権利承継による参加をした。なお、同事件は、脱退被告の訴訟脱退により終了した。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、アイゾッド社がゼネラル ミルズ社から脱退被告(請求人)に譲渡された経過の認定は認めるが、審決は、本件商標が他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあると誤って判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  審決は、「本件商標の登録出願日前に発行されたと明らかに確認し得る甲第20号証ないし第28号証(注、本訴丙第22~第30号証の各1、2)・・・及び同第40号証ないし同43号証(甲第43号証中の枝番11、13、30を除く)(注、本訴丙第31~第35号証、第36号証の1、2、第37号証、第38、第39号証の各1、2、第40~第65号証)によれば、やや図案化された「IZOD」の欧文字が「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに、もしくは「IZOD」の欧文字が単独で、スポーツウェア等衣服を表示するものとして使用されていることが認められる。」(審決書21頁14行~22頁5行)とするが、誤りである。

すなわち、そこで掲記された証拠では、「IZOD」の欧文字が単独で表示されているわけではなく、著名な「ワニ」の図形マーク及び著名な「LACOSTE」の欧文字と並べて表示されているのであり、仮に、これらのマーク全体として著名であるというのであれば、それは「IZOD」の欧文字部分から生ずる結果ではなく、「ワニ」の図形マーク又は「LACOSTE」の欧文字の部分から生ずるグッドウィルの結果であるといえる。

2  審決は、「本件商標の登録出願日前に発行されたと確認し得る・・・甲第3号証の1(注、本訴丙第66号証)は、『’82一流ブランド製品』として『ゴルフウェア、テニスウェア、・・トレーナー等』について、『IZOD』の欧文字が『ワニ』の図形及び『LACOSTE』の欧文字とともに使用され、甲第4号証(注、本訴丙第5号証)の3枚目には、『特にワニ印のアメリカ版アイゾッドのものは、・・』、『アイゾッドの“アメリカ製ラコステ”に・・』とあり、その裏には、『アイゾッド製のポロシャツに・・』の記載が認められ、甲第5、6号証(注、本訴丙第6、第7号証)には、『アイゾッドはアメリカの会社で、フランスのラコステ社からワニ印を使う権利を買っているのだ。・・アイゾッドは色が豊富だけど、フランスのラコステ社の作っているポロシャツの色とは少し違うのだ。これはラコステ社が寸分たがわぬものを作ってはいけないといっているからなのだ』と説明書きがあり」(審決書22頁6行~23頁4行)とするが、これらの証拠の記述内容は、単に雑誌に述べられた一私見にすぎないので、疑いもなく信用することができないし、仮に、記述のとおりであったとしても、そこから理解できるのは、「ワニ」の図形マーク又は「LACOSTE」の欧文字の商標が著名であるということだけである。

3  審決は、「甲第2号証(注、本訴丙第66号証)によれば、1979年当時すでに米国において、『ワニ』の図形と『LACOSTE』、『IZOD』の商標を付した偽造品に対する警告書が出されていることからすれば、これらの商標が米国において著名であったと推認し得るところである。」(審決書24頁1~6行)とするが、同書証(1979年2月13日発行「DAILY NEWS RECORD」)の内容は、単に一私人が自己の宣伝目的で新聞掲載した記事であり、その記述内容は客観的事実とは認められないから、この証拠を基に、米国内における「IZOD」商標の著名性を認定したことは誤りである。

4  審決は、「日本において、服飾等流行を先取りする分野にあっては、それに関連する取引者、デザイナー等は、流行の最先端といわれるフランス、イタリア、米国などの流行をいち早く知り、取り入れ、日本の消費者等に紹介するということは、ごく普通に行われているばかりでなく、近時、海外への旅行者の増加、多種多様の情報媒体の発展等に伴い、一般消費者自ら、海外の流行に直接触れる機会が多いことからすれば、米国において著名な商標は、日本においても、よく知られているとみて差し支えないといえる。」(審決書24頁7~17行)とするが、服飾の分野であるがゆえに、米国内の著名性をそのまま日本での著名性と同等に扱う判断は誤りである。昨今は、人や物さらには情報の国際交流が盛んになっているという事実はあるにせよ、日本国内の実績なくしては、米国で使用されているという商標「IZOD」が、日本国内で著名であるとは認定できない。

この著名性が認められない以上、審決が、「IZOD」の欧文字と「同一の綴文字を有してなる本件商標を、被請求人がその指定商品について使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、該商品がアイゾッド社の、もしくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある」(審決書26頁11~17行)と判断したことも誤りである。

5  指定商品の区分は、商品類否の判定の指標となりうるような配慮が加えられて作られたものであるから、本件商標の指定商品である「装身具、かばん」等と審決が根拠とする「IZOD」の商標の「被服」との商品区分の相違は、重視されなければならない。

このような相違を無視して、「装身具、かばん等と衣服、靴、時計等は、統一されたブランド名のもとで、同一のファッションメーカーより製造、販売される場合が少なくない」(審決書27頁2~5行)という理由で、本件商標が他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあると認定することは誤りである。

第4  参加人の反論

審決の認定判断は正当であるから、原告の主張はいずれも理由がない。

すなわち、「IZOD」の欧文字は、本件商標の出願日前に我が国において取引者・需要者に広く認識されていたと認められるから、これと同一の綴文字を有する「IZOD BY IMAGAWA」との本件商標を、原告がその指定商品について使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、該商品がアイゾッド社、もしくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがある。

1  米国で発行された雑誌又はちらしにおいて、「IZOD」の「I」の部分をやや図案化した欧文字は、単独で使用され、あるいは、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字と一緒に使用された場合でも、これらとは離して表示されたり、比較的大きく表示されており、「IZOD」の欧文字に〈R〉が付されている場合もある。以上のことから、「IZOD」の欧文字は、独立の商標として、アイゾッド社もしくはその親元である脱退被告の営業主体を表示するものとして、スポーツウェア等被服につき広く使用されていたことが明らかである。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書21頁14行~22頁5行)に誤りはない。

2  他方、日本国内においても、「IZOD」の欧文字及び「アイゾッド」の文字が、米国のアイゾッド社ないし脱退被告の取扱いに係るスポーツウェア等の商標として、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに、もしくは単独で使用され、かつ、フランスのラコステ社の製造したものとは区別されて紹介され、宣伝され、この種ウェアのセールス・ポイントとして利用されていた。特に、「IZOD」の欧文字ないし「アイゾッド」の文字は、造語であり、日本の需要者に対し、外観上及び称呼上、特異な印象を与えるものである。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書22頁6行~23頁4行)に誤りはない。

3  また、1979年当時すでに米国において、「ワニ」の図形と「LACOSTE」、「IZOD」の商標を付した偽造品に対する警告書が出されていたが、これは、「IZOD」が優れた顧客吸引力を有するからこそ生じたものである。このことを報じた丙第66号証は、アイゾッド社らが新聞に掲載した警告記事であって、その記載の仕方及び内容からみて真実に合致するものとして信頼できる。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書24頁1~6行)に誤りはない。

4  日本における服飾等ファッション業界では、デザイナー、取引者等関係者は流行の最先端を行くフランス、イタリア、米国などの流行に常に特別な注意を向け、流行をいち早く入手・導入し、日本の消費者等に紹介等していた。また交通手段の発達・情報媒体の増加等に伴い、一般消費者自ら海外の流行を直接知る機会が多くなっている。以上のような具体的な状況を考慮すると、米国において著名な「IZOD」の商標は、日本国内においても、よく知られていると推測するのが合理的である。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書24頁7~17行)に誤りはなく、この著名性を前提とする審決の判断(審決書26頁11~17行)も正当である。

5  参加人が「IZOD」の欧文字を商標として使用しているスポーツウェア等被服の商品分野では、ファッショナブルであることをセールスポイントとするものであり、一般にこのような被服類は、バッグや装身具とコーディネイトできるようにして販売されたり使用されるものである。また、両者が、しばしば同一のメーカーにより、統一されたブランド及びイメージの下に取り扱われていることは、今日的流行であると知られている。そして、原告の本件商標の指定商品が参加人の著名商標と営業上密接な関係がある以上、本件商標がその指定商品について使用された場合に、これに接する取引者・需要者が、当該商品をもって、参加人の業務に係る商品と出所の混同を生ずるおそれがあることは明らかである。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書27頁2~5行)に誤りはない。

第5  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立(丙第3~第78号証については原本の存在及び成立)については、いずれも当事者間に争いはない。

第6  当裁判所の判断

1  本件商標の構成、指定商品及びその登録の経過、本件商標中の「IZOD」の欧文字部分と同一の綴文字を有してなる「IZOD」の商標を有していたアイゾッド社は、ゼネラル ミルズ社のファッション関係の事業部門として、フランスのラコステ社から、「LACOSTE」の商標に関する使用許諾を受け、米国において、ゴルフウェア、テニスウェア等のラコステ製品の製造、販売をしていたものであるが、その後、「IZOD」の商標とともに、脱退被告に譲渡され、さらに、参加人が、脱退被告から「IZOD」に関する世界各国の登録商標を含む上記事業部の営業の全部の譲渡を受けたものであることは、当事者間に争いがなく、この事実によれば、脱退被告の「IZOD」に関する営業上の地位は、脱退被告から参加人に承継されたものと認められる。

2  本件商標の登録査定日(平成元年8月17日)前に、米国において発行されたと認められる雑誌や広告用ちらし類(丙第10~第30号証、第33~第65号証)によれば、以下の事実が認められる。

米国の男性用スポーツウェア、カジュアルウェアを掲載した雑誌及びちらし類において、「IZOD」の「I」の部分だけを糸巻の形にやや図案化した欧文字、あるいは、「IZOD」のままの欧文字は、単独で大きく表示されて使用され(丙第34号証、第36号証の2、第51、第55、第56、第63号証)、また、これらを含めた米国の多数の服飾関係の雑誌及びちらし類においても、前記のやや図案化された「IZOD」あるいは「IZOD」のままの欧文字は、単独で文中又は図面上などにおいて頻繁に使用されている(丙第34号証、第36号証の2、第38号証の1、2、第39号証の2、第41~第66号証)。これらの「IZOD」の欧文字は、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字と一緒に近接して配置され使用されることも多いが、その場合でも、看者の注意を惹き易い上段か、中央に大きく表示されていたり(丙第10~第21号証、第22~第30号証の各2)、他の部分に対し比較的大きく表示されており(丙第35、第44、第53、第54、第57~第62号証)、他の構成要素と分離して観察され易いものといえる。そして、使用された「IZOD」の欧文字に〈R〉(合衆国特許商標庁で商標登録がなされたことを証するマークである。)が付されている場合も多い(表示が明らかなもの、丙第10~第21号証、第29及び第30号証の各2、第35号証、第36号証の2、第37号証、第38号証の1、2、第39号証の2、第41~第48号証、第51~第59号証、第61~第65号証)。

これらの事実によれば、審決が、「本件商標の登録出願日前に発行されたと明らかに確認し得る・・・によれば、やや図案化された「IZOD」の欧文字が「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに、もしくは「IZOD」の欧文字が単独で、スポーツウェア等衣服を表示するものとして使用されていることが認められる。」(審決書21頁14行~22頁5行)と認定しにことに誤りはなく、「IZOD」の欧文字は、米国内において、「ワニ」の図形又は「LACOSTE」の商標とは独立してスポーツウェァ等被服につき広く使用されていたものであり、それ自体別個に自他商品の識別のための機能を有し、アイゾッド社もしくはその親企業である脱退被告の営業主体を表示していたものというべきである。

3  本件商標の登録査定日(平成元年8月17日)前に日本国内において発行された雑誌(丙第5~第7号証)及び宣伝販売用ちらし(丙第67号証)によれば、以下の事実が認められる。

国内で発行された男性用服装雑誌には、「特にワニ印のアメリカ版アイゾットのものは、ステータスにもなっている。」、「アイゾットの“アメリカ製ラコステ”に・・・」との記載があり(丙第5号証)、一般雑誌には、服装関係記事として、「アイゾッドはアメリカの会社で、フランスのラコステ社からワニ印を使う権利を買っているのだ。・・・アイゾッドは色が豊富だけど、フランスのラコステ社の作っているポロシャツの色とは少し違うのだ。これはラコステ社が寸分たがわぬものを作ってはいけないといっているからなのだ。」「アイゾッドは身頃の長さがバツグンだ。」との説明があり、アイゾッドのポロシャツのタグとして、前記のやや図案化された「IZOD」の欧文字が、小さな「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに表示されている(丙第6、第7号証)。

また、国内のゴルフウェア、テニスウェア等の宣伝販売用ちらし類においても、「’82一流ブランド製品ブランドフェア」あるいは「ブランド・ディスカウント」等の表題のもとに、アイゾッド社ないし脱退被告の取扱いに係るポロシャツ等の商標として、前記のやや図案化された「IZOD」の欧文字は、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字と一緒に配置され、その上段に比較的大きく表示されている(丙第67号証)。

したがって、審決のこれと同旨の認定(審決書22頁6行~23頁4行)に誤りはなく、日本国内においても、アイゾッド社は、フランスのラコステ社とは異なるファッションメーカーとして紹介され、その製造にかかるポロシャツが広く宣伝されており、また、「IZOD」の欧文字は、上記ポロシャツや宣伝広告用のちらし類において、米国のアイゾッド社ないし脱退被告の取扱いに係るスポーツウェア等の商標として、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに使用されていたものということができる。

4  米国の新聞「DAILY NEWS RECORD」(1979年2月13日発行、丙第66号証)には、「有名なワニを象徴した商標とラコステとアイゾッドの商標は下記の会社によってのみ使用を許されている。・・・最近、これらの著名な商標を付した品質の劣悪な商品がバーゲン価格で市場に現われ始めた。私たちは私たちの権利の侵害と公衆への詐欺をやめさせるため積極的に私たちに取り得る法的な措置をとるつもりだ。私たちは十分な範囲でこれらの商標又は他の商標の使用を許可されていない者に対して訴追するだろう。」と記載されており、1979年当時すでに米国において、アイゾッド社らが、「ワニ」の図形と「LACOSTE」、「IZOD」の商標を付した偽造品に対する警告書を出していたことが認められ、このことは、「IZOD」が優れた顧客吸引力を有する商標であることを示すものといえる。

したがって、審決が、「1979年当時すでに米国において、『ワニ』の図形と『LACOSTE』、『IZOD』の商標を付した偽造品に対する警告書が出されていることからすれば、これらの商標が米国において著名であったと推認し得るところである。」(審決書24頁1~6行)と認定したことに誤りはない。

5  近時、海外旅行者の増加、交通運搬手段の発達、各種情報媒体の発展等に伴い、人や物さらには情報の国際間での交流が一層盛んになっており、特に、我が国の服飾等に関するファッション業界では、米国を含む海外の流行や事情に敏感であり、常に情報を収集して国内の消費者等にこれを紹介、宣伝していたということは顕著な事実といえるから、服飾の分野において米国において著名な商標は、日本国内においても、一般的に周知なものといえる。

したがって、審決が、「日本において、服飾等流行を先取りする分野にあっては、それに関連する取引者、デザイナー等は、流行の最先端といわれるフランス、イタリア、米国などの流行をいち早く知り、取り入れ、日本の消費者等に紹介するということは、ごく普通に行われているばかりでなく、近時、海外への旅行者の増加、多種多様の情報媒体の発展等に伴い、一般消費者自ら、海外の流行に直接触れる機会が多いことからすれば、米国において著名な商標は、日本においても、よく知られているとみて差し支えないといえる。」(審決書24頁7~17行)と認定したことに誤りはない。

6  本件商標の指定商品は、「装身具、かばん」等であり、他方、「IZOD」の欧文字が商標として使用されるのは、前記のとおり、米国及び日本におけるスポーツウェア等の「被服」の商品分野であるが、流行やファッション性が重視される服飾業界では、このような被服類は、ネックレス、ペンダント、イヤリング、指輪等の装身具及びハンドバッグ、ボストンバッグ等のかばん類とコーディネイトできるようにして宣伝、販売されたり、使用されており、同一の売り場に展示されることも少なくない。また、被服と装身具及びかばんが、しばしば同一のメーカーにより、統一されたブランド及びイメージの下に製造、宣伝、販売されることも一般的によく知られている。

したがって、審決が、「被請求人は、本件商標の指定商品である『装身具、かばん』等と請求人の主張する『被服』とは、売り場も異なり、非類似の商品であるから、出所の混同は起こらない旨主張するが、装身具、かばん等と衣服、靴、時計等は、統一されたブランド名のもとで、同一のファッションメーカーより製造、販売される場合が少なくないから、この主張は採用できない。」(審決書26頁19行~27頁6行)と判断したことに誤りはない。

7  ところで、「IZOD」の語は、特定の語義を有しない造語であって、一般的に商標として利用されやすい成語ではなく、その綴文字からなる外観及びその綴文字から生ずると認められる「アイゾッド」、「アイゾット」、「イゾッド」、「イゾット」との称呼が、特徴を有するものであることを考慮すると、「IZOD」の欧文字自体、かなり顕著な商品識別機能があるものということができる。

このことと前記の各事実を総合すると、「IZOD」の商標は、本件商標の商標登録査定日以前より、日本国内における被服の商品分野において、アイゾッド社ないしこれを傘下に収める脱退被告の取扱いに係る商品を表示するものとして、その取引者及び需要者に広く認識されていたものと認められる。

そして、この著名な「IZOD」の商標と全く同一の綴文字を含む本件商標「IZOD BY IMAGAWA」が、前記商品分野と営業上密接な関係がある指定商品について使用された場合、これに接する取引者・需要者は、当該商品をもって、アイゾッド社ないしこれと関係を有する者の業務に係る商品と出所の混同を生ずるおそれがあることは明らかである。

したがって、審決のこれと同旨の判断(審決書26頁11~17行)に誤りはなく、審決が、「本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により無効とする。」(審決書27頁7~10行)とした判断は正当であり、他に審決を取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

別紙

〈省略〉

平成2年審判第3624号

審決

アメリカ合衆国 コネチカット州 06490 サウスポート クリスタル ブランズ ロード(番地なし)

請求人 クリスタル ブランズ インコーポレーテッド

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 中村稔

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 松尾和子

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 熊倉禎男

東京都千代田区丸の内3丁目3番1号 新東京ビル 中村合同特許法律事務所

代理人弁理士 加藤建二

東京都杉並区高円寺南2丁目42番8号

被請求人 株式会社 今川

東京都港区赤坂1丁目3番5号 赤坂アビタシオンビル7F 松田・松浦法律特許事務所

代理人弁理士 松浦恵治

上記当事者間の登録第2204021号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第2204021号商標の登録を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

1. 本件登録第2204021号商標(以下「本件商標」という。)は、「IZOD BY IMAGAWA」の欧文字を横書きしてなり、第21類「かばん、袋物、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和60年1月23日に登録出願、平成2年1月30日に登録されたものである。

2. 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第50号証(枝番を含む)を提出している。

(1)請求人は、婦人服、子供服、紳士用スポーツウェアの製造、販売、輸入を幅広く行っている法人であるが、その営業活動の一つとして、1951年10月1日にフランスのラコステ社から著名なラコステの商標に関する使用許諾を受け、ラコステ製のテニス用、ゴルフ用シャツその他男性用被服の販売をしていた(なお、ワニの図形につて米国のアリゲータ社が商標権を有しているため、これからも使用許諾を受けている)。請求人は、その男性服部門をアイゾット・ディビジョンの名称で活動させてきたが、1959年12月1日にこの部門を独立させて、商標の使用権については、アイゾッド リミテッド(IZOD Ltd.以下「アイゾッド社」という。なお、請求人は、審判請求書の理由中において「IZOD」を「アイゾット」と表記しているが、以下、「アイゾッド」と表記する。)に譲渡した。その結果、アイゾッド社はラコステとワニマークの商標についての使用許諾を得て「IZOD LACOSTE」商品を米国を皮切りに大々的に販売していたものである。請求人は、このアイゾッド社を子会社の一つとして、傘下に収めている。

被請求人は、「アイゾッド社なるものが存在するか不明である」と主張しているが、アイゾッド社の前身は、1951年イギリスの洋服や、ジャック アイゾッドの名のもとに、米国でラコステシャツが販売されたことに始まるが(甲第42号証)、これがニューヨーク法人「Izod Limited」として会社設立され、その後、ゼネラル ミルズ インコーポレーテッド(以下「ゼネラル ミルズ社」という。)に吸収合併され、法人格を失うが、同社のファッション関係の事業部門(Izod Limited Divisionという名称であって、わが国には、「アイゾッド社」として紹介していた。)としてその事業を続け、「IZOD」の商標権もゼネラル ミルズ社に譲渡されたが、さらに、上記事業部は、「IZOD」の商標権とともに請求人に承継され、現在に至っている。

(2)請求人は、前記のように、アイゾッド社を傘下に入れることによって、ラコステ社及びワニマークの商標についての使用権を取得し、米国においてラコステの商品を製造し、大規模な宣伝、拡販活動を展開し、昭和51年、52年頃から米国内にアイゾッドブームを巻き起こし、米国のラコステシャツといえば「IZOD LACOSTE」のことを意味するまでになった(甲第1号証)。

甲第1号証に「IZOD」の記述を欠くのは、米国のラコステシャツといえば、米国でラコステのシャツを製造している米国法人、アイゾッド社のラコステシャツであることが自明なことであり、むしろ「IZOD」の著名性を立証するものである。このことは、甲第4号証の47頁の記事と同第1号証の119頁の記事を相照らしてみれば、甲第1号証の「ラコステのシャツ」がアイゾッドのラコステシャツを意味することはわかる。また、甲第37号証には、甲第1号証の記事中の「アメリカのラコステシャツ」を「IZOD LACOSTE シャツ」と記載されており、これは、わが国当業者の「アメリカのラコステシャツ」についての認識の一証左である。

(3)アイゾッド社の商品は、フランス製ラコステとは異なり服地の色に合わせて青、赤、黄等各種あり、フランス製ラコステとは別に「IZOD LACOSTE」は著名なものとなり、その偽造品まで出回るようになった(甲第2号証)。

甲第2号証の記事は、アイゾッド製品を扱う8社共同の警告記事であって、そのうちの4社は、当時のゼネラル ミルズ社の傘下の同列企業体であり、その警告の規模の大きさを知ることができる。これより米国において、「IZOD」、「LACOSTE」製品の偽造品が相当数で回っていることが明らかであり、また、偽造品が出回るほどこれらの製品が著名であることは明かである。「アイゾッド」は、「ワニ印のアメリカ版、アメリカ製ラコステ(甲第4号証)」、「ラコステのアメリカ・メイド(甲第44号証)」、「アメリカ製ラコステ(甲第47号証)」、「ルネラコステが発明したポロシャツの米国バージョン(甲第46号証)」として知られているから、アメリカのラコステシャツといえば、容易に「アイゾッド」と認識される。

また、一般にファッション業界(ここでファッション業界とは、被服、装飾品、バッグ、シューズ、眼鏡等の身につけるファッション性を有する商品をいう)は、世界の流行に関心を払っているのが通常であるから、わが国のファッション業界が米国で流行している「IZOD」、「LACOSTE」製品を知らないはずはなく、それ故、甲第2号証はわが国のファッション業界における商標「IZOD」の周知、著名性を容易に推測させるものである。また、甲第2号証の記事中、「IZOD」、「LACOSTE」及び「ワニの図形」の商標は各々〈R〉マークを伴って、別個対等の登録商標として扱われており、被請求人が主張するように、当該記事中「ワニの図形」の商標のみにポイントが置かれている訳ではない。

また、最近の市場の国際的一体化の傾向及び商標の国際通用性を鑑みるときに本件商標の登録適否について属地主義に拘泥することが不合理であることはいうまでもない。すなわち、外国の商標のわが国における周知、著名性の認定に当たっては、当該商標について外国で周知なことが十分に勘案されなければならない。

ここで翻って、本件を考案するに、請求人の「IZOD」製品は本国のみならず、ブラジル、チリ、中国等23力国に及ぶ世界の多数の国でライセンシーの下に製造販売されている(なお、この中には「IZOD」製品の輸入のみをしている国は含まれていない)。また、請求人は「IZOD」に関連する商標について、世界各国で約80もの商標登録を取得しており(甲第32号証)、「IZOD」製品が世界的な商標であることは明かである。したがって、請求人の「IZOD」商標の世界的な著名性は、我が国内における、当該商標の周知、著名性について十分に参酌されるべきであり、わが国のファッション業界における「IZOD」の周知、著名性は容易に推認し得るものである。

(4)一方、日本においても、米国の「IZOD LACOSTE」のブームの影響を受け、「IZOD LACOSTE」を付したシャツ等被服の輸入の要求が高まり、新進貿易株式会社がアイゾッド社の製品を輸入販売したことによって、若者に爆発的な人気を呼び、青山や新宿において若者のファッションとなり、大量に販売されるようになった(甲第3号証の1~4)。

その後、1978年8月1日発行のファッション雑誌「メンズクラブ」208号において米国でのアイゾッドブームの紹介と日本での販売店が紹介され(甲第1号証)、また1979年8月1日発行の「メンズクラブ」においても上述と同様の記事が掲載され(甲第4号証)、わが国においても「IZOD LACOSTE」のブームが惹き起こされたものである。

(5)「IZOD」製品は、「The New Yorker」等の米国雑誌に継続的に広告されており、この雑誌はわが国においても配布されている(甲第8号証ないし同第28号証)。また、「IZOD LACOSTE」は、しばしば日本文で「アイゾッド ラコステ」と表示され、上述のように日本でも爆発的な人気を呼んだが、その後も若者向け雑誌「POPEYE」に掲載され、フランス製ラコステとは異なった特徴を有するものとして、大衆に宣伝している(甲第5号証及び同第6号証)。このように「IZOD」は、日本おいて、被服については「LACOSTE」及びワニの図形とともに使用されているが、商標の希薄化を避けるために請求人は、「IZOD」を常に「LACOSTE」から離して、しかも「LACOSTE」よりも大きく表示して、単独の商標として認識できる態様で使用しており、「IZOD」が単独の商標として著名となっていることは明かである。また、紳士及び婦人用スポーッウェアに「IZOD」及び「IZODCLUB」単独の商標ラベルをアイゾッド製品の主要ブランドの1つとして使用している(甲第40、41号証)し、「IZOD」は、単独のまたは独立要部のブランドとして表示されている(甲第43、45号証)。仮に、請求人の商標が「IZOD LACOSTE」として世人に認識されたとしても、「IZOD LACOSTE」をフランス製品と識別するために世人は、これを単に「IZOD」または「アイゾッド」とのみ略して呼ぶ場合が多い。

なお、「IZOD」または「IZOD LACOSTE」が著名商標であることは、甲第3号証の1~4の広告チラシ及び同第5、6号証の記事の中で、「IZOD」製品が一流ブランド製品の一つとして扱われていることからも明らかである。

(6)さらに、「IZOD」は、ゼネラル ミルズ社によって昭和38年3月7日から20年間、第17類「被服、布製身回品、寝具類」について登録され(登録第606583号、存続期間満了により消滅 甲第7号証)、日本において使用された結果、請求人ないしはアイゾッド社に係る被服関係商品を表示するものとして取引者、需要者に認識されているものである。

なお、請求人は、第17類において公告された「IZODCLUB」(商願昭59-90907号)及び「IZOD」(商願昭57-21477号)に対して登録異議申立てを行ったが、異議申立人の商標「IZOD」の周知性を理由に登録異議申立てについて理由ありとの決定を受けている(甲第29、30号証)。上記先例と本件とを区別すべき合理的根拠は何ら見出せないから、本件も上記先例と同様に判断されるべきである。

(7)本件商標は、「IZOD」「BY」「IMAGAWA」の3語よりなるが、これらの語の間には1字分の空白があるため、常に一体のものとして認識される必然性はなく、「IZOD」が独立して認識されるおそれがあること明白であり、さらに、「IZOD」の文字部分は、請求人の著名商標と同一である。したがって、本件商標は、「IZOD」の文字部分より単に「アイゾッド」と称呼され得る。なお、本件商標は、登録第2204020号商標「IZOD」と連合商標として登録されていることからも、本件商標と請求人の「IZOD」が類似することは明かである。

また、商品についても、本件商標の指定商品中の「装身具、かばん類、袋物」等は被服同様身につけたり、携帯する物であり、ファッション性の高い商品であり、いずれもトータルファッションと称して、同一のデザイナーによって創作され、同一の製造者、販売者によって、製造、販売されていることがよくある(甲第33号証)。したがって、請求人の商標と類似する本件商標を被請求人が第21類の商品に使用すれば、取引者、需要者は、その出所を混同するおそれがあることは否定できない。

(8)被請求人は、昭和57年ラコステ偽造品の販売で摘発されている(甲第35、36号証)。また、わが国での被請求人の「IZOD」に関する一連の商標登録出願は、「IZOD」の語が極めて特異な言葉であって、偶然の一致とは考えられないものであり、被請求人は、第17類において、商標「IZOD」に加え、商標「IZODCLUB」も出願しているが、これも請求人がアイゾッド製品について使用している主要マークの1つであるから、被請求人は、請求人の商標「IZOD」をコピーしたものに違いない。前述したとおり、「IZOD」は請求人及びアイゾッド社の世界的に周知、著名な商標であり、その「IZOD」商標の信用に便乗しようとする被請求人の商標登録の意図、行為は、健全な商品流通秩序及び競合秩序の保護、形成というわが国商標法の目的に反するものであり、被請求人の商標登録行為は、国際信義違反、公正な取引秩序違反等公の秩序に反する行為であり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号にも該当する。

(9)以上詳述したように、本件商標は、商標法第4条第1項第10号または同第15号及び同第7号の規定に該当し、その登録は、同法第46条の規定により無効にされるべきである。

3. 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べている。

(1)本件商標は、商標法第4条第1項第10号もしくは同第15号に該当するものではない。請求人は、商標「IZOD」が被服関係について広く知られた商標であると主張するが、これが周知または著名な商標であるとは到底認められない。

(2)〈1〉甲第1号証によれば、商標「ラコステ」についての記述は認められるが、商標「IZOD」については全く記述がない。このことより商標「IZOD」の周知・著名性について、甲第1号証は何も立証していない。

〈2〉甲第2号証は、一私人が新聞に掲載した広告記事と思われ、そのポイントは商標「ワニの図形」にあると思料される。ましてやその記事中には米国における登録商標のことを扱っているのであって、その記事をそのまま日本市場における商標の登録状況や周知・著名性の判断に強引に結び付ける訳にはいかない。本件商標の問題は、日本市場における問題としてとらえるべきである。この記事が規模の大きな警告記事かどうかは不明であり、一方的立場の警告記事の存在を理由として、商標「IZOD」が米国内において周知、著名である等ということは乱暴な判断である。そして、甲第2号証によれば、米国のラコステシャツは、アイゾッド社以外にもデイビッドクリスタル社、ピービーエム社、アイゾッドジェーシー社、ハイマーカー社、ノーザ社、アリゲーター社、ジーンパト社でも取り扱っているのであるから、このような状況においてラコステシャツといえば、直ちにアイゾッド社の製品といえるかどうかは、疑問である。なお、アイゾッド社の製品とはいかなる意味なのか明確でなく、アイゾッド社なるものが存在するか否かが不明であり、仮に米国に存在するとしても、そのアイゾッド社が商標「IZOD」を「ラコステ」商標と結合させずに単独で使用しているとの事実は不明である以上、商標「IZOD」の米国内での周知、著名性はもちろん、我が国内における周知、著名性も何等立証されていない。米国内において周知、著名性を備えていない商標「IZOD」がわが国において知られているはずはない。

甲第32号証のリスト中日本国内のものは、第24類の登録であり、他の1件は、出願中のものであるし、リスト中の商標は、「IZOD」単独のものだけでなく、種々の商標が含まれているものであるから、これより商標「IZOD」が周知、著名であるとはいえない。

〈3〉甲第3号証の1~4には「IZOD」と「LACOSTE」の文字及び「ワニの図形」とが表示された部分が存在することは分かるが、このことをもって単に「IZOD」商標が単独で当然の如く周知・著名であるなどとは到底認められない。例えば、第17類における商標「Pierre balmain」(商公昭50-64424)より単に「Pierre」の部分が周知・著名であるといえるか否かは疑問である。この例で仮に「Pierre」の部分が周知・著名であるとすれば、他人の商標である「Pierre CARDIN」(商公昭44-37015)が存在する以上、「Pierre balmain」が同じ第17類を指定商品として商標登録されることはあり得ないはずである。

この例からも明白なとおり、請求人が主張する「IZOD」の商標が取引者・需要者にとって周知・著名であると本件商標の出願時において判断されている事実はないと認められる。

〈4〉甲第5号証及び同第6号証中、マーキングされた部分に片仮名文字「アイゾッド」、欧文字「IZOD LACOSTE」の記載があることは分かるが、この記載をもって商標「IZOD」が周知・著名であるとはいえない。この記載からみれば、「LACOSTE」という商標の識別マークの一つとして「IZOD」という商標が付されており、これとは別に「IZOD」の付されていない「LACOSTE」が存在することが判明するだけであり、このような記事または広告が存することを理由として商標「IZOD」が周知・著名であるとは認められない。

〈5〉甲第8号証ないし同第28号証は、雑誌名配布年月日、発行者が不明であり、わが国においてこれらが配布されたかは全く不明である。また、甲第8号証ないし同第28号証には「IZOD LACOSTE」が一体的に表示されているものであるから、単にこの表示から「IZOD」のみが引き出されることはなく、強いていえば「LACOSTE」と略して呼ぶことはあるかも知れない。

〈6〉請求人とアイゾッド社とゼネラル ミルズ社の実情及び相互関係は全く不知。したがって、これらの会社の実情がどうであれ、各会社の活動より「IZOD」の周知・著名性が判断されることはあり得ない。

また、甲第7号証により、「IZOD」の商標について過去に登録を受け、更新手続きを失念したのだといっても、それをもって過去20年間日本において「IZOD」の商標を使用し著名になったとの主張は強弁にすぎない。

請求人会社が世界的に活動をしている被服関係の会社を多く子会社として傘下に置き、世界各国で活動しているとの主張は不知である。たとえ、請求人会社が世界各国で活動している事実があったとしても、それをもって商標「IZOD」の周知・著名性が判断されることはない。

(3)本件商標は、第21類「かばん類、袋物、その他本類に属する商品」を指定商品とするものであるから、第17類「被服関係」の商標とは非類似の商品に関する商標である。第17類と第21類の商品は売り場も異なり、商品の出所の混同が起こらないことは明白である。しかし、第17類の商品と第21類の商品とが流通経路、需要者を共通にする場合も当然考えられるが、このような問題は、具体的ケースに基づいて判断されることで、本件において例外的に扱う特段の事情は存在しない。

(4)なお、請求人は、甲第29、30号証の登録異議申立てについての決定謄本を援用して「IZOD」の周知性があるかの如く主張しているが、上記異議決定に基づく拒絶査定に対しては、被請求人は査定不服審判を請求している。したがって、上記異議決定の判断が最終的に支持されている訳ではないので甲第29、30号証が本件審判の判断に影響を与えることはない。

また、請求人は、被請求人の記事を掲載した甲第35、36号証を提出して、被請求人を悪意に満ちたイメージでみているが前記記事に掲載された事件の事実関係は、被請求人は他人が外国から仕入れた商品を偽物とは知らずに単に購買して卸売りしただけであり、いわば事件に巻き込まれた状況である。その関係で、同一ルートの商品を扱ったとの理由で書類送検されたのであって、新聞記事から発せられる悪質なイメージと事実関係は相違している。

(5)よって本件商標は、請求人の主張する如き、他人の周知・著名商標と同一または類似のものであるなどということはない。

5. よって検討するに、審判請求の理由、甲第4号証ないし同第6号証、同第38号証及び同第39号証を総合すれば、アイゾッド社(法人であるか否かは別として)は、ゼネラル ミルズ社の一部門であり、フランスのラコステ社から、「LACOSTE」の商標に関する使用許諾を受け、米国において、ゴルフウェア、テニスウェア等のラコステ製品の製造、販売をしている会社であったが、その後、同社はゼネラル ミルズ社より請求人に譲渡され、請求人の傘下となった経過が認められる。

そして、本件商標の登録出願日前に発行されたと明らかに確認し得る甲第20号証ないし同第28号証(請求人は、これらについて審判請求理由中で「米国雑誌」と述べ、被請求人は、これに対して、争うところがない。)及び同第40号証ないし同第43号証(甲第43号証中の枝番11、13、30を除く)によれば、やや図案化された「IZOD」の欧文字が「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに、もしくは「IZOD」の欧文字が単独で、スポーツウェア等衣服を表示するものとして使用されていることが認められる。

また、いずれも本件商標の登録出願日前に発行されたと確認し得る甲第3号証の1、同第4号証ないし同第6号証をみると、甲第3号証の1は、「’82一流ブランド製品」として「ゴルフウェア、テニスウェア、・・トレーナー等」について、「IZOD」の欧文字が「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに使用され、甲第4号証の3枚目には、「特にワニ印のアメリカ版アイゾッドのものは、・・」、「アイゾッドの“アメリカ製ラコステ”に・・」とあり、その裏には、「アイゾッド製のポロシャツに・・」の記載が認められ、同甲第5、6号証には、「アイゾッドはアメリカの会社で、フランスのラコステ社からワニ印を使う権利を買っているのだ。・・アイゾッドは色が豊富だけど、フランスのラコステ社の作っているポロシャツの色とは少し違うのだ。これはラコステ社が寸分たがわぬものを作ってはいけないといっているからなのだ」と説明書きがあり、ポロシャツについて「IZOD」の欧文字が「ワニ」の図形と「LACOSTE」の欧文字とともに使用されている。また、大きく書された「アイゾッド」の片仮名文字も認められる。

してみると、上記事実からすれば、「IZOD」の欧文字は、アイゾッド社の取扱いに係るスポーツウェア等を表示するためのものとして「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字とともに、もしくは単独で使用され、米国において、本件商標の登録出願日前に発行されたと確認し得る雑誌だけでも、少なからず宣伝広告されていたこと及び日本においても、本件商標の登録出願日前において、「IZOD」の欧文字の含まれる商標が米国のアイゾッド社製のラコステ製品であり、フランスのラコステ社の製造したものとは区別されてある程度紹介され、宣伝されていたことが認め得るところである。

また、甲第2号証によれば、1979年当時すでに米国において、「ワニ」の図形と「LACOSTE」、「IZOD」の商標を付した偽造品に対する警告書が出されていることからすれば、これらの商標が米国において著名であったと推認し得るところである。

そして、日本において、服飾等流行を先取りする分野にあっては、それに関連する取引者、デザイナー等は、流行の最先端といわれるフランス、イタリア、米国などの流行をいち早く知り、取り入れ、日本の消費者等に紹介するということは、ごく普通に行われているばかりでなく、近時、海外への旅行者の増加、多種多様の情報媒体の発展等に伴い、一般消費者自ら、海外の流行に直接触れる機会が多いことからすれば、米国において著名な商標は、日本においても、よく知られているとみて差し支えないといえる。

してみれば、「IZOD」の欧文字を含む商標は、わが国においても紹介、広告されていた事実も加えると、日本においても、取引者のみならず、一般の需要者にも知られていたと判断するのが相当である。

ところで、上記米国で使用されている商標中、「IZOD」の欧文字のみで使用されているものを除いた商標及び日本において使用されている商標は、前記のとおり、「IZOD」の欧文字、「ワニ」の図形及び「LACOSTE」の欧文字の組み合わせを要部とするとものであるところ、「IZOD」の欧文字は、「I」の文字部分を図案化し、「LACOSTE」の欧文字とは、その書体を異にするばかりでなく、いずれの場合も、看者の注意を最も惹き易い上段か、あるいは中央に大きく表されており、他の構成要素と分離して観察され易いものとえるから、それ自体独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものとみるのが相当である。

また、前記した甲第5、6号証の説明書きより、「IZOD」の欧文字を有する商標を付したポロシャツ等は、フランスのラコステ製の商品と区別さて使用されていたこと、「IZOD」の語が商標として採択され易い親しまれた成語ではなく、特定の語義を有しない造語よりなるものと認められ、わが国においては、この綴文字及びこれより生ずる称呼は、むしろ特異なものとして印象付けられることからすれば、「IZOD」の欧文字自体、独立した商品区別標識として強く印象付けられることは不自然とはいえない。

そうとすれば、請求人の使用に係る商標中の「IZOD」の欧文字は、本件商標の商標登録出願日前より日本国内において、需要者間に広く認識されていたものと認められるから、これと同一の綴文字を有してなる本件商標を、被請求人がその指定商品について使用した場合は、これに接する取引者、需要者は、該商品がアイゾッド社の、もしくはこれと何らかの関係を有する者の取扱いに係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものと判断するのが相当である。

なお、被請求人は、本件商標の指定商品である「装身具、かばん」等と請求人の主張する「被服」とは、売り場も異なり、非類似の商品であるから、出所の混同は起こらない旨主張するが、装身具、かばん等と衣服、靴、時計等は、統一されたブランド名のもとで、同一のファッションメーカーより製造、販売される場合が少なくないから、この主張は採用できない。

したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により無効とする。

よって、結論のとおり審決する。

平成7年3月31日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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